船窓から
ゴンゴンゴン…。フェリーのエンジン音とゆりかごのように揺れる船体のリズムが心地いい。
船で迎える朝は2度目。移動と宿泊を兼ねられて、「目が覚めたら異世界」という環境はとても「旅感」があっていいんですよね。
大阪から鹿児島の南端【志布志】までは、約12時間の船旅になるので、朝もゆっくりできてしまう。
別府航路だと、起きてすぐ出発だったことを考えると優雅な時間です。
今日はライドの本番なので、しっかりと朝食をとらないといけません。朝食ビュッフェ700円はリーズナブルで嬉しすぎます。昨晩がジャンクフードだったので、栄養バランスと水分補給を考えて…なんて言いながら、ご飯食とパン食の両方をおなか一杯いただきました。
朝食のあとはデッキでのんびり。宮崎県の南端【都井岬】が見えます。
今回のルートには組み込んでいませんが、野生の馬【御崎馬】がいたり、登れる灯台の【都井岬灯台】があったりと、いつか訪れてみたい場所です。
8:55、いよいよ鹿児島県【志布志港】に到着です。放送がかかると、途端に船内の雰囲気があわただしくなる。「旅、はじまった」と感じるこの空気感も好きだなあ。
輪行袋を担いでフェリーターミナルに降り立ってまず感じたのは…「暖かい!!?」
さすが九州南端、そして火山の国。2月だというのにここはもう春なんですね。
1日目のルート
ここで先に1日目(旅の2日目)の行程の概要です。
この日の目的地は【桜島】。人生で一度は見ておきたい活火山です。
宿泊はさんふらわあのパックプランで予約した鹿児島市内のビジネスホテル。
鹿児島を2日に分けて走るので、1日目は【大隅半島】の見どころを探して走るルート。
大隅半島には、九州最南端の岬【佐多岬】や種子島に次ぐ男子の憧れ【JAXA内之浦宇宙観測所】があったりと盛りだくさんなんですが、距離とルートを考えると少し無理がありますね。
しかし、知人からおススメされた【雄川の滝】は行けそうなので、ここを中継地点として桜島を目指すことにします。…が、予想に反してかなりの距離と高度と時間をかけた1日目。いよいよスタートです。
【志布志】を出発
時は2月。しかし桜島は春。
というのも走り出してすぐに「暑い!」。あたたかいだろうと予想していたものの、これほどとは。
春秋用の薄手のロングスリーブで来たけれど、インナーを脱いでも汗がでます。さすが南国だ。
だって、桜も咲いてるし…。この国の人の春は早いんだなあ。と感じます。
志布志からしばらくは【広域農道】ぽい道を往くのですが、畑だけでなく牧場があったりもします。
自転車が珍しいのか、私の恰好がおかしいのか、バイクを寄せると一斉に牛さんたちが集まってきます。うん、のどかでいい感じだ。
大隅半島の半分は山岳地帯。なんだかんだで結構登ります。こういう感じの峠がなん箇所かあるんですが、峠の先に次の山が見えるという、なかなかに壮大なスケール感です。
交通量もあまりない道なのですが、この峠でストイックなローディーの一団に出会いました。「引け引け!」という掛け声とともに、すごいスピードで峠を越えていった集団はきっと自転車競技で有名な【鹿屋体育大学】の自転車部ではないでしょうか。それにしても、この峠続きの道を全力で走れるってすごいなあ。
私はひーこら言いながらゆっくり峠を越えていくわけですが、この日は大型サドルバッグにすべての荷物を積み込んできたので、体は身軽な状態。けれどサドルバッグの反動が大きすぎてダンシングができない…というジレンマ。旅と荷物と乗り心地については、まだまだ研究の余地がありますね。
大隅半島随一の景勝地【雄川の滝】
知人におススメされていた【雄川の滝】を目指して大隅半島を南西に進んでいると、ルート上に看板が。なるほど、わかりやすい!こちらに進めばいいんですね。GoogleMapを見なくても観光地なので看板に従っていけば着くわけで…
…到着したものの、なんか思ってたのと違う??
イメージでは下から見上げて「おおぉー!」という感じのはずが、なぜか滝は下方に見えている。あと、滝の上にある九州電力の水力発電所の設備が景観的にイマイチ…。
でも確かに看板には「雄川の滝上流展望所」って…ん?「上流」!?
そう、東側から遠路はるばるやってきた旅人を誤誘導してくれたこの看板。「上流」に来たいわけではなかった!!チクショー!(笑)
ここで、Googlemapさんに聞いてみると、あと10kmくらい迂回しないと、本当の滝には行けなさそう。仕方ありません。時間的にもなんとかなると見込んで進路変更です。
鹿児島旅をする皆さんは、くれぐれも間違って上流展望台に惑わされませんよう、ご注意を。
先ほどの地点から約15kmのアップダウン。結局60分かけて、本来の【雄川の滝】強いて言うならその下流に到着したのが13:30。思ってた予定からちょうど1時間のビハインド。
ちなみに、このとき2018年冬。雄川の滝に向かう遊歩道を作るために、ちょうど大きな工事をやっているところでした。奇しくも大河ドラマは【西郷どん】。オープニングで雄大な雄川の滝が映っていた時なので観光地的には旬な時期だったようです。
工事現場から少し手前に、地元の方(以下、おばちゃん)が小さな移動販売車を出しておられました。この季節のサイクリストは珍しいんでしょう。気さくに話しかけていただき、旅の話、滝の話に花が咲きます。
この会話の中で「子どものころは、この滝の下まで沢を登ってみんなで遊びに行った秘密の場所だったんだけど、テレビで有名になってしまって、県が大きな工事を始めちゃったのよ。せっかく自然が綺麗なところだったのに観光地みたいに整備してしまってどうするんだろう。【佐多岬】も一緒。地元の人間としては少し悲しいわ。」というようなことをおっしゃってました。
また、「最近は旅行会社の人が来て、地域の商店に土日も開けてもらえないかって交渉してくる。もともと高齢の人ばっかりでお店も地元の人向けで土日はお休みの人がほとんど。このままでは生活も変わっていくみたいで怖い。」とも。
旅人の私としても、観光客同様にあえてこの滝を見に訪れているわけなので、複雑な思いで話を聞いていましたが、おばちゃん的に旅人は別にいいそうです。(笑)
とはいえ、実際に旅をしていると、同じような状況の場所を多く見ることになるのですが、行政的な視点で見ると、特に九州地方はアジア系インバウンドで観光整備が急務だったころ。行政には行政の事情が、地元には地元の事情があるので、よそ者としては無責任に意見できないですね…。
ひとしきり話を終えて、またここに戻って感想を言うことを約束して、半分くらい整備された遊歩道を沢に沿って登っていきます。
徒歩約15分。沢を登った先にあったのは…静かに、大きくそびえる岩壁。一筋の流れが幹となり、岩の隙間からは小さな水流の糸が枝のように細くつらなっている。凛とした佇まいに息をのんでしまった【雄川の滝】。
いつもなら「どーーん!」とか効果音を付けるのですが、ここは本当に静かにただ「しん」と自然の中に在りました。語彙がないですが「神々しい」というような存在感。今まで見てきたどの滝とも違います。
こういう景色を独りで見て感じるのが旅の醍醐味でもあるのですが、残念ながら整備された展望台には、当時最盛だった「インスタ女子」がワイワイきゃーきゃーと。少し残念。でもその気持ちもわからなくはない。(笑)
それにしても、滝そのもの以外にもエメラルドの淵と純白の洲。そしてそびえたつ幾重にも重なってできた岩の壁。壮観でした。
惜しまれるのは、さっき「上流展望台」を見てしまったこと。滝の上の設備は見る必要ないですよ、と次行く誰かに強く念を押しておきます。
【雄川の滝】を十分に満喫して、遊歩道を戻り先ほどのおばちゃんの元へ戻ってきました。
おばちゃん「どうだった?」
私「圧倒されて言葉にならなかったです。来てほんとによかった!」
おばちゃん「ありがとう。地元の人間として嬉しいわ。これからここもどんどん変わってくると思うけど、嫌いにならんとってね。」
私「変わっていくかもしれませんよね。でも、だからこそ、また来たいと思います。」
おばちゃん「ぜひまたおいで。あと【佐多岬】にも私の知り合いが同じように○○ってお店だしてるから、行くことがあったら声かけてや。」
というような会話と約束をして、【雄川の滝】を後にします。九州最南端、【佐多岬】には翌日訪れる心づもりです。
気が付くとそこは海【錦江湾】
雄川の滝から西進。とうとう【大隅半島】の西側【錦江湾】に出ました。海が見えるとテンションが上がる!!
ここからは海岸沿いに北上していき【桜島】を目指すのです。でも、その前に補給タイム。今まで何も補給をしていない…というか、山間部あるあるで「お店がない」という特典付きだったもので。
確かファミリーマート。四国と九州では圧倒的にファミマのシェアが高いように思いますが気のせいでしょうか。本当は食堂やレストランでご当地メニューも考えていたんですが、なんと「閉まっている」。土日といえば開いてるイメージは都市部の話。地方では土日はみなさんお休みのようです。これも旅を続けてきて覚えたこと。
それでもコンビニにも少しはご当地っぽいお弁当も置いてあるので、薩摩豚の三色そぼろ弁当をいただきまーす。そんなお昼ご飯はなんと15:30。よく体がもったものだと自己評価。
ここからは幸いにして追い風。湾岸を進むのには好条件です。事前情報では風向き次第で【桜島の灰】が降ってくるらしいので、その点でも追い風は安心です。
湾岸を快走していると、海に突き出た小さな神社が…これは立ち寄りポイントですね。
鳥居には【菅原神社】とありますが、案内板には【荒平天神】。菅原道真を祀る二つ名の神社ですね。海に突き出た小島の急峻な岩山に本殿があり、吊るしてあるロープを手掛かりに階段を上ってお参りします。「この旅でも多くの学びがありますように…。」
鹿児島のシンボル【桜島】
カーブを抜けたら「見えたっ!!」。あれが【桜島】ですね。頂上付近から煙を上げているのだから、間違いない!一気にテンションが上がってきましたよー!
しかし夕暮れも迫っています。これは「上流展望台」のせいです。(笑)
とにかく、陽が落ちてしまうと一気に旅のペースが狂ってしまう。そもそも桜島では展望台や資料館などでゆっくり現地見学をしたかったのだから、ペースを上げなければいけません。
現在17:30。大阪に比べて若干日没の時間が長いので、微妙に助かっている!
18:00に【桜島】に上陸。錦江湾に突き出た、まんま火山の形の半島です。
「上陸した。」と言っても、桜島全周で約35kmというスケール感は侮れません。
お昼のタイムロスが大きく響いているので、展望台や博物館はあきらめざるを得ない。とにかくこの【桜島】の周遊道路の南側を走って、鹿児島市街を目指すことにします。
うーん。近い!
実際に音はしてないけれど、「ゴゴゴゴ…」とジョジョの奇妙な冒険的な背景を思い浮かべてしまう。この日は火山がおとなしい日らしいのですが、それでも噴煙が上がり続けているのだから、地球の生命力のすごさを感じます!
これはマジなやつ。実際に噴火すると【噴石】が降ってくるわけですから、こういった【退避壕】は必要不可欠。きっと自転車のヘルメットとか、ぱかーんて割れちゃうはず。
フェリーに乗って【鹿児島市街】にゴール!
結局【桜島】は通過することしかできなかった…「上流展望台」め…(笑)
しかしなんとか日暮れぎりぎりで辿り着くことができました。
18:30に【桜島港フェリーターミナル】に到着。すっかり日は暮れてしまいましたが、ターミナルと海を挟んだ対岸の鹿児島市街の明かりが綺麗です。
この【桜島フェリー】は桜島と鹿児島市街を結ぶ単線航路ですが、なんと24時間運航(!)。地域の足として日常的に使われている公共交通です。片道15分、多い時間帯には1時間に4本ものダイヤでせっせせっせと乗客を運んでくれます。大人片道200円、自転車130円という破格の運賃も嬉しところですね。
自転車はコレといった固定もなく、ただ船の壁に立てかけるだけ。まあ短い時間ですしオッケーです。
船内もいい感じにコンパクトで、シート席がずらり。でもほとんどのお客さんはデッキで夜景を眺めています。これもすぐに着いちゃうからですね。フェリーというより渡船の感覚に近い。
せっかくなので、私も恒例の船内探検の跡はデッキから鹿児島の夜景を眺めることにします。
【鹿児島港】からほんの10分。本日のゴールはここ【ホテル サンデーズイン】さん。
19時30分とチェックインには少し遅めの時間です。自転車は交渉の結果、なんとクロークで預かってもらえることに。ありがとうございます!
なんだかんだとアップダウンや日暮れを焦ったタイムトライアルなどしていた結果、初日から走行距離140km、獲得標高約2,300mとまずまずのお疲れモードです。
その分、楽しみなのが夕食とお風呂。ここは鹿児島の市街地ど真ん中。何一つ困ることはありません。
ぺこぺこのお腹を満たしに、夜の街へ繰り出しましょう!
裏目的地はココ。【南国しろくま】でおなじみの【天文館むじゃき】さん。1階はあのかき氷…フラッペ?の【しろくま】の専門店。2階から上はレストラン&飲み屋さんになっている、鹿児島の食の総合デパートなのです。
まずは、ゆっくり夕食を。ということで2階の飲み屋さんへ。鹿児島といえば【薩摩の黒豚】を外すわけにはいきません。夜というのに【黒豚トンカツ定食】と【黒豚しゃぶしゃぶ】を贅沢に食します。
この黒豚のお肉…なんと「甘い」んです。これには驚きました。
あまりにボリュームある夕食を食べすぎて、お腹はパンク状態。しかし、【しろくま】を食べずに帰るわけにはいきません。1階の喫茶店に入ろうか真剣に悩んでいたら、なんとテイクアウトもやっていました。ラッキー!当然買ってホテルへ戻ります。
ランドリーでウェアを洗い、部屋風呂で汗を流し(鹿児島市街に銭湯見つけられず…)、旅日記を書きながら【しろくま】を食べて…。十分に贅沢な夜の時間を過ごします。
鹿児島旅の初日。朝は【志布志港】にいて、今は【鹿児島市】にいる。自転車ってこんな距離を移動できるんだ、と旅初心者だった頃の私は悦に浸るのでした(笑)
それにしても脚が張ります。明日も100km越えなので、しっかり脚も休めないと…実はさっき薬局で液体サロンパスを買っておいたので、しっかりマッサージ&塗布してベッドに入ります。
うーん、ベッド最高!おやすみなさい。
つづく…
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