プロローグ
何かと理由をつけては、ロードバイクで遠くにでかけてしまう私。
今回のロングライドは、些細なきっかけで幕を開けたのです。
「お…お気に入りの湯呑が欠けてしまった…。」ガーン!
この湯呑は、春先に家族で滋賀県の「信楽(しがらき)」に行って手に入れた「信楽焼」。淡いブルーの発色が私のバイクに似ていて、愛着をもって毎日使っていたんですよね。
ところが洗い物の際に手を滑らせて落としてしまい、打ち所が悪く飲み口が欠けてしまいました…。
これはきっと、神様の思し召しだ…。仕方がない…。
折角の休日なので「信楽」まで、お気に入りの湯呑を再び買いに行くしかないか!?
ということで、出だしはいつもの「さくらであい館」。ところで最近この施設がサイクリストを引き寄せる伏魔殿なんじゃないかと密かに気になっている私。
前回の記事で紹介した通り、ここでパンとバナナを買いだして本日のライドスタートです。
コースプロフィールはこんな感じ。
地図が大きすぎてわかりにくいですが、木津川沿いに「京奈和自転車道」を西へ。山城大橋から国道307号線にスイッチして、あとは道なりに走ると「信楽」につくという寸法。
帰りは輪行で返るつもりの片道切符。途中、自転車をそのまま載せることもできるローカル線の「サイクルトレイン」が運行しているらしいので、これにも乗車してみたい。
ということで、冬のある日のお買い物ライドがスタートするのです。
「木津川サイクリングロード」の左岸を往く
さくらであい館の前から、さっそくブルーラインがサイクリストの道案内をしてくれています。…ということに、この日改めて気が付きました。最近表示されたのかな?
以前は、嵐山サイクリングロード(以下、CR)だったり、桂川CRだったり、木津川CRだったり、呼び方がいろいろありましたが、最近このように「京奈和(けいなわ)自転車道」と呼び方が一本化された模様。
その気になれば和歌山まで行けるわけですが、私にとってはまだ未体験ゾーン。ネタに困ったときはここから和歌山まで攻め入るのも楽しそうですね。なんでも全長180kmあるみたいです。1DAYライドで行けなくもない距離感が絶妙だ。
桂川・宇治川・木津川を横断する「京阪電鉄」の鉄橋。鉄橋と電車って画になるので、日常であってもカメラがあると構えてしまいます。
大阪住まいですが、京阪電車には乗ったことがない私。いずれ京阪での輪行もやってみたいですね。
そういえば、この日は木津川のCRは市民マラソン大会のため「通行止め」でした。なので木津川の対岸を走って山城大橋へ向かうことに。
「これは思ったよりも快適ルートだ!!」と、対岸(左岸)を走りながら思った私。
左岸の方が道幅が広く交通量も少なくて、とても走りやすいんです。正規の右岸沿いのルートはブルーラインこそ引いてありますが、道幅が狭かったり、自転車&歩行者が多かったり、時にトリッキーなアップダウンがあったりするので、今回は目から鱗。今度から移動にはこっちを使おうかな…。
…と思ったものの、左岸の所々には「自転車スピード落とせ」看板や管理者用の一時停止ゲートがあったりするので、生活者や河川管理者用の道という位置づけなんでしょうね。サイクリストがこちらに流れると支障も出てきそう。
そういえば「流れ橋」も左岸から撮影。右岸側には展望所があったりするのですが、左岸はあくまでも自然のまま。飾らない空気感が素敵です。いつもと違った景色も面白いものですね。
国道307号線で「宇治田原(うじたわら)」へ
左岸沿いを快適に走っていると、いつの間にか「山城大橋」に到着。ここから国道307号線にスイッチです。
山へ向かっていくわかりやすい道。
国道307号線は、大阪府の枚方(ひらかた)から滋賀県の彦根までを結ぶ、全長約110kmのルートです。今回の目的地である「信楽」もこのルート上にあるので、わかりやすい一本道ですね。
交通量が多く、低い山間エリアでもあるので、小さなアップダウンやブラインドカーブがそこそこあり、自転車では時折ヒヤリとする場面もあります。
とはいえ、さすがに国道沿いなので道路に面した店舗の数や種類は多め。補給や休憩、食事などに困ることはありません。
そして、この国道307号線のもう一つの特徴は「お茶」。
宇治~甲賀はお茶の産地としても有名で、その真ん中を貫く動脈になっています。京都から福井までの南北ルートが「鯖街道」なら、京都から滋賀への東西ルートは、さながら「お茶街道」と呼ぶにふさわしい。とか勝手に言ってる私。
ちなみに自転車通行帯には、ブルーラインならぬ「ブラウンライン」。通称「京都やましろ茶いくるライン」が走っているので、あながち間違っていないと思います。
国道の斜度はきついところでも5%台。さして頑張る必要もないので安全にだけ気を付けてペダルを回します。
今回は走りやすさを優先して国道を使ったのですが、集落に入るとこのような旧街道の表示があったので、並走する別のルートもあったのかもしれません。
”和”の映えスポット「慈眼山 正寿院」(じげんさん しょうじゅいん)
おや? ここには一度来たことがありますよ。
国道307号線で唯一自転車&歩行者が通行できない区間に「奥山田バイパス」があるのですが、これをかわすために、一部だけ旧道を走る必要があるのです。そして、その旧道沿いにこの風鈴寺こと「正寿院」があるのです。
せっかくなので、休憩がてら境内を散策することに。
夏は数えきれないほどの風鈴で彩られる境内も、静かで厳かな本来の(?)お寺の姿になっていました。
そういえば、ここは本堂や別棟の内装も美しくかつお洒落で、見ごたえのあるお寺だったはず。
夏の汗だくジャージで内観をためらった過去があるのですが、今日は非常に静かで空いている。そして、ウェアも冬用なのでそれなりに見られる格好です。
であるならば、内観するのは今日がベストだ!ということで、600円を支払って「正寿院」の内観をしてきました。
本堂のご本尊は「十一面観世音」さま。正寿院のすごいところは、館内撮影がOKなところ。一般的に神社仏閣ではお堂内の撮影が禁止されているところが多いので、非常にありがたい。
本堂本尊の部屋にある天井画。おそらく創建当時からのものなのでしょう。圧倒的な説得力です。ここも写真NGじゃないのってスゴイ。
このお参りの作法にも感心しました。観音様とつながっている五色の「結いのひも」をもって合掌します。写真目当てだけではいけないので、しっかり拝んでから館内探検のスタートです。
屏風や襖絵が非常に華やか。絵柄から、おそらく近年に製作されたものだと推察しますが、本堂の大きな部屋を彩る様々な絵には、それぞれメッセージが込められていて自然と信心を身につけられる空間になっています。
屋外の木戸にもリスの画が。こちらは謎かけにもなっていて、しばらく足を止めて考えさせられるエリアです。
本堂を見終えたら、続いて別棟である客殿へ。
この客殿にある「即天の間」が見ごたえがあって凄いと評判なのです。
どーーん!!
広々とした和室は「和」の中で考えられる限りの華やかさ。質素の中に爽やかな彩りが映えます。
インスタなどで目にする、このハート形の窓は「猪目窓(いのめまど)」。
本当はハートをひっくり返した形を「猪の目」と呼ぶのですが、ここでは柔らかく解釈して「ハート」の向きに。左右の障子、奥の庭の風景といい、お洒落なことこの上なし。
私的にはこちらの天井画に圧倒されました。
総数160画。日本絵師の協力で、花や女性など日本の美を集めた絵の数々はひとつの「絶景」です。
この日のお客さんはわずかで、この部屋が実質貸し切り状態という、嬉しいサプライズ。15分程度でしたがじっくり鑑賞&撮影をさせてもらえました。
夏は風鈴でにぎわうお寺ですが、静かにお参り&内観できる冬が意外とおススメですよ。
そうそう、実はこの「正寿院」でさらに嬉しいサプライズがありました。
バイクを押して歩いているときに、数人の学生さんのグループとすれ違ったんですが「あ、サーベロだ、いいなあ!」って反応してくれたんですよ。
私もちょっと嬉しくなって「ありがとう!」って答えながら一旦は通り過ぎたのですが、お寺周りで改めて出会ったときに、なんと学生さんから「ラムネライダーさんですか!?」って改めて声をかけられました。
少し珍しい「空色のサーベロ」を見て思い出してくれたようです。旅先で偶然フォロワーさんから声をかけられると本当に嬉しいものですね!ここで心の栄養補給ができました。
正寿院をあとに、アップダウンのある旧道を走り抜け国道307号線に再び合流。
お茶の里「宇治田原」に別れを告げて、物語は滋賀県へうつります。
狸と焼き物の里、「信楽」(しがらき)
全国でも有名なのか、それとも関西人への刷り込みなのか。とにかく「タヌキの置物といえば、信楽(しがらき)」なのです。
307号線を走っていると、あまりにもわかりやすい目印。ここはすでに信楽なのですね。
ちなみに信楽は、滋賀県の甲賀市(こうかし)にあります。甲賀といえば伊賀と山一つを隔ててその存在を二分する「忍びの里」。
なので、この信楽ではいたるところにタヌキと忍者が潜んでいます。これを探してみるのも結構楽しいエリアですよ。
ちなみに私の世代で忍者といえば「忍者ハットリくん」。伊賀のハットリくんは”エエモン”で、甲賀のケムマキは”ワルモン”という刷り込みがなされています。理不尽な話だが、負けるな甲賀!
時間はお昼過ぎ、ここまで70kmほど走って来たのでそろそろ食事タイムです。
補給食のパンとバナナが残っていてお店で食事をするほどでもなかったので、お茶屋さんで何かいただこうと「茶のみやぐら」さんに立ち寄ってみました。
宇治田原のロードサイドにさんざんお茶のお店があったにもかかわらず、滋賀県側でお茶を堪能する不思議。(笑)
ここで選んだのが、「朝宮茶」を使用した、煎茶と抹茶のダブルアイスクリーム。
市販のそれとはあきらかに違う、ご当地の茶葉を使用したアイスの強い香りとほろ苦さがたまりません。そして外気温8℃でアイスを食するという環境もまた、たまったもんじゃありません。(笑)
「朝宮茶」というのをこのときはじめて耳にしたのですが、お隣京都の「宇治茶」も含む、「日本五大銘茶」の銘柄のひとつなんだそう。
日本六古窯(にほんろっこよう)の「信楽焼」を有し、伊賀とは忍術で、宇治とはお茶で張り合う。甲賀市信楽はなんてポテンシャルの高いところなんだろう!
どーーーん!
どどーーーーん!!!
と、どのようにも言い逃れができない、まさにここが「信楽」であることの証拠。
国道には陶器販売の店舗が多いものの、走るには少々退屈。市道側には製造元の店舗がつらなるので、信楽では街中の道を走るのがおススメ。
中には入りませんでしたが、ここでは「登り窯」の見学もできるようです。
滋賀県が発祥の地と言われる「飛び出し坊や」も、ここでは忍者だったりします。
そういう視点で見ると、一見ふつうの飛び出し坊やも、世を忍ぶ仮の姿で実は忍者…という設定に見えてくる不思議。
信楽のメインストリートの奥に構えるのは、信楽一之宮である「新宮神社」。旅をしていると、その土地の「一之宮」を意識することが増えてきます。
ちなみに信楽ですが、古くは「紫香楽」とも書くようですね。こちらも素敵な字の響きです。
忘れてはいけないのが、NHK朝の連続テレビ小説「スカーレット」の聖地であるということ。残念ながら私は見ていなかったものの、お話には聞いたことがあります。一種の社会現象もありましたし。
とにかく、こうやって見ると「信楽」には優れたコンテンツがたくさんあることを実感します。
自転車で乗る!「信楽高原鐡道(しがらきこうげんてつどう)」
新宮神社の参道はまっすぐ「信楽駅」につながっています。ここが信楽の本通りですね。
そして道のさきにあるこの駅は、ローカル路線である「信楽高原鐡道」の始発駅なのです。
この旅の第一の目的は、「割れた湯呑を再購入する。」ということなのですが、じつは「自転車そのままで鉄道に乗ってみる。」という裏目標もあったのです。なので密かに目指していたのがこの「信楽駅」。
「信楽高原鐡道には、自転車をそのまま持ち込めるらしい」というウワサを耳にしたものの、公式HPにはアナウンスなし。今現在で輪行したという明確な情報もネットに落ちていなかったので、実際に確かめてみないといけません。
駅についてもそれらしい表示がなかったので、思い切って駅員さんに聞いてみます。
私「すいません。自転車ごと車両に乗れるって話をきいたんですが…。」
駅「信楽から紫香楽宮跡までの区間なら大丈夫ですよ。そこの券売機で手回り品の切符を買ってください。」
おーいえー!!ウワサは本当でした!
今回は移動というよりは、自転車持ち込みに興味があったので体験乗車。運賃290円と自転車290円の合計580円のお支払いです。
自転車を押して。堂々と改札を通る。この感覚は新鮮。なぜか背徳感さえ感じます。(笑)
信楽高原鐡道の車両は、単両単線のワンマン運行。乗り方は路線バスと同じです。
どん。と自転車を立てかけるの図。
駅と駅の間隔も非常に短く、お客さんが多くはない区間なので自転車持ち込みが可能なんですね。
公式HPでアナウンスしていないのは、きっと駅貸し出しのレンタサイクルの輪行を優先したいからだと思います。実際に信楽エリアはそんなに広くはなく、ロードバイクよりはレンタルママチャリでゆっくりポタリングするのに適した環境ですし。
タヌキと忍者が陣取り合戦。車両の中はイラストやマークでいっぱい。
ちなみに、この車両は「忍トレイン」の名で親しまれてますが、ライバルの伊賀では「忍者列車」が運行されているらしい。
ガタン…ゴトン…ガタン…ゴトン…。
のんびり運行のワンマン列車は、スピードより景色を楽しむもの。
輪行終点の一つ前の「雲井駅」で下車。バイクとともに「忍トレイン」を見送ります。
単両単線の鉄道を見送るのは、なぜか風情があってセンチメンタルに。これもまた旅情ですね。
さて、ここからは鉄道で来た道を自転車で引き返す旅。
というのは、目的である湯呑を購入するお店が、乗車した信楽駅の近くにあるから。
今回は電車の時刻表を見て、先に鉄道に乗ってから自転車で買いに行く方が効率が良かったんですよね。駅間の距離も近いので、ほんの数kmもどるだけで済むのだから。
で、たどり着いたのが、お洒落なカフェを併設した陶器販売店の「大小屋」さん。とてもお洒落なお店なんですよ。サイクルラックもあるのでロードバイクの立ち寄りにオススメです。
ここで、目当ての湯呑をサクッと購入して、ミッションクリアー!!
大切な信楽焼を割れないように緩衝材に包んでもらい、オルトリーブのサドルバッグにイン。ここからは段差に気を付けて走らないといけません。
ふたたび丸ごと輪行。「近江鉄道サイクルトレイン」に乗る!
無事にミッションをクリアしたら、あとは帰路につくのみ。
国道307号線をさらにひた走り「JR貴生川駅」に到着しました。
貴生川駅はターミナル駅になっていて、信楽高原鐡道の終点にもなっています。自転車持ち込みでなければ、ここまで乗車できたというわけ。
そして、滋賀県の湖東を走るローカル線「近江鉄道」の始発駅でもあります。
忍者とタヌキがずっとついてくる。きっとゆるキャラとして名前もあるんでしょうね。
自転車で駅舎内に突入!!…しても誰も止めません。
というのは「近江鉄道サイクルトレイン」が運行しているから。
近江鉄道では、平日は通勤通学時間をのぞく昼間、土日祝は終日、毎日サイクルトレインを運行してくれているのです。
帰路は鉄道路線とはずれてしまうので、ここも一駅分だけの体験乗車。
運賃180円、距離2.6kmの電車旅。そして切符は懐かしい「硬券」です!
近代的なホームに堂々と自転車を持ち込めるのは、信楽高原鐡道の時よりも違和感があって素敵。(笑)
いえーーーい!貸し切り車両だ!
サイクルトレインといっても、特別自転車用の設備はありません。信楽高原鐡道と同じく、乗客の少ない区間は自転車を持ち込んでも影響が少ないと見込まれてのことなのでしょう。
それでもサイクリストにとってはとても有用な鉄道ですね。
車窓からの景色はすっかり「街」になりました。
近江鉄道に乗り続けると「米原(まいばら)」まで行けちゃうんですが、今回はたった一駅の乗車なので「水口城南(みなくちじょうなん)」がゴールです。
「水口城」にて。いわゆる戦場のお城ではなく、徳川家の上洛の際の宿城として作られたらしい。
小さなお城だけれど、東海道沿いにあるので、街並みも含めた風情がいい感じでした。
旧東海道を抜けて、草津を目指す。
ここからは、国道1号線と並走する旧街道「東海道」の区間を走って、野洲(やす)方面を目指します。
夕暮れの東海道の景色を眺めながら、昔の人々が歩いたこの街道のストーリーのあれこれを想像します。この街灯が行燈だったらそれはもう当時の景色そのものなんでしょうね。
旧東海道の区間を終えると、それはそれは面白くもなんともない都市型ライドに早変わり。
夕方の幹線道路なんか走るもんじゃありません。さっさと駅を目指しましょう。
18時すぎにようやく「JR草津駅」にゴール!クリスマスが近いのでイルミネーションが綺麗です。
ここで初めて自転車をばらす形での輪行スタイルに。
草津からは新快速であっという間に帰阪。JR東海道線でも滋賀から兵庫の区間はこの新快速が大活躍してくれます。「特急キラー」の異名にも納得。
ということで、19時すぎには自宅に到着。
目当てであった湯呑も手に入りました。経年によって結構色が変わっていたのには驚きましたが、それでもバイクと同じ空色がとても美しいのです。以後、割らないように気を付けないといけませんね。
湯呑の買いなおしを言い訳に、家を飛び出したロングライド。
結果として「100km超のライド+サイクルトレインを利用したプチ電車旅」を満喫することができました。
大阪を拠点に考えると、東西南北それぞれのモデルコースが組みやすいのですが。片道輪行を念頭に、東方面に「信楽」や「伊賀」を目指すのも非常に面白いと思います。高低差もあまりないので、冬場のライドにはおススメですよ。
おしまい。
コメント