旅の基本はフェリー旅
「冬だ。旅しないと…。」
と自然に思うくらい、季節の自転車旅が定番になってきた頃のお話。
ある2月の中旬に、ふと気づくと北大阪の私鉄【阪急電鉄】のホームに輪行袋を担ぐ私がいました。
久しぶりの阪急♪このあずき色の車両は唯一無二。大阪では「上品な路線」として親しまれています。
さて、今回この電車に乗って目指すのは大阪南港の【オレンジフェリー】。瀬戸内航路で、かつサイクリスト御用達のこのラインになぜか今まで乗ったことがなかった。
それでは、阪急電車→大阪メトロ→ニュートラム、と乗り継いで旅の出発地として定番になってしまった【大阪南港】を目指しましょう。
深夜の静まり返った港。といっても22時なのですが。
目的地は愛媛県。瀬戸内を走るオレンジフェリー【大阪~東予】の航路は、サラリーマンに優しい時間設定が特徴。「22時大阪の南港発、翌6時愛媛の東予港着」という行程は、仕事を終えてから乗船できるお得なダイヤ。
そして、この旅の少し前にフェリーが新造船になっていました。従来のイメージだと2等客室にあたる「雑魚寝のカーペット」がフェリー旅の象徴だったのですが、なんとこの新造船では全室個室(!)という仕様に。
一番お安いお部屋でもこのとおり。立派なシングルルームです。旅感あふれる船旅から「移動するホテル」へと進化を遂げていたなんて…!
とりあえずベッドでごろごろしながら翌日の行程を考える。この「自分のお部屋感」はなかなかですよ!
誰も利用していなかったのでこっそり撮影。私的には「フェリーといえば大浴場!」。ここでゆっくり仕事の疲れを癒しましょう。
風呂上がりにビールを飲んで、目が覚めたら愛媛で旅のスタート。なんてすばらしい環境なんだ!!
愛媛県は「サイクリング天国」と言われて久しいですが、今治からの「しまなみ海道」もさることながら、この大阪からのアクセスの良さもその一端を担っていることがわかりますね。
あっという間に翌朝6時。ここは愛媛県の東予港。
つい昨日の夕方まで、デスクでお仕事をしていたとは思えない…。時間と空間をすっとばして一気に別世界です。【オレンジフェリー】素晴らしすぎます!
いざ、松山へ!
さて、今回の行程ですが、なんと現地日帰り1DAY旅。しまなみ海道は幾度も走っているので、少しひねりを加えたルートを引いてみました。
東予から山を越えて【松山】へ。そこから海沿いに「今治・道後はま風海道」を北上して【今治】からしまなみ海道にアクセス。【大三島】から「とびしま街道」に渡って【呉】を経由して【広島】へゴール。という予定です。
時は2月。早朝の薄暗くキリッっと冷えた空気、吐く息の白さも冬旅の感じがして心地いい。
遠くに見えているのは四国山地。石鎚山系の山々は真っ白に雪をかぶっています。あの山のすそ野を走る国道11号線を伝って、まずは松山を目指しましょう。
記事的にワープ!【松山】です。(笑) 朝イチの山越えでカメラを構える余裕がなかった。
実際には東予~松山間で思ったよりも標高を稼いでしまい、旅の前半でさっそく足を削られたり、長い下りで体を冷やしたりと中々の目にあってます。というか、ちょうど旅慣れしてきた頃でもあって油断もあった。ウェアや装備を整えていなかったのも失敗。
ということで、8時40分。松山市街に到着です。実にここまで60km。
父方の実家が同じ愛媛の新居浜なので、子どものころはよく夏休みに帰ったものですが、松山の街は初めて。新居浜では見ることがない路面電車【伊予鉄(いよてつ)】のオレンジがなんとも新鮮。
愛媛県の県庁所在地であり随一の都会でもありながら、歴史や文化と共生するこの街はとても魅力的です。
そして松山といえば【道後温泉】。「坊ちゃん湯」でおなじみ…とのことですが、私は読んだことがありません。機械仕掛けのからくり時計や「坊ちゃん列車」なる汽車もありましたが…わからないというのはなんとも残念です。
【道後温泉本館】。ここを見に来たのです。この風情と佇まいが最高ですね。
冬といえば温泉なので、ここで入っておきたいところでしたが、旅はまだ前半。冬の湯冷めライドも怖いので、ここは文化財として拝んでおくだけにとどめます。
本館側面の立体的な作りも素敵。これが温泉施設だとは一見わかりませんよね。
道後温泉は「日本最古の温泉」らしく…ん!?兵庫県の「有馬温泉」もそうじゃなかったか??とか思いますが、自称に任せましょう。とにかく昔ながらの風情が色濃く残った場所なのでした。
惜しまれるのは周囲の近代化。以前に旅した大分ライドでの「竹瓦温泉」も「建造物は素晴らしいけれど、周囲の近代化や商業化からは取り残されている。」という少し寂しい景色がありました。行政上の都合など、立地や周辺状況の変化は仕方がないけれど、せっかくの風格が風景から浮いてしまうのは寂しいことです。
道後温泉周りを納得するまでブラブラできたので、そろそろ松山を発ちましょう。オレンジの車両には乗らずに黒いバイクが今回の相棒です。
今になって惜しまれるのが【松山城】をパスしちゃったこと。後から知ったのですが「現存十二天守」の一つだったんですね。なかなか行く機会もない場所なので押さえておきたかった!
三津の渡し、そして東京ラブストーリー
松山市をあとに次の目的地へ向かうのですが、その前に立ち寄っておきたいところがあって。というのも、オレンジフェリーのベッドでだらだらしながら見つけたポイントがあるんです。
それがここ。【三津の渡し(みつのわたし)】です。
松山港の小さな入り江を走る渡船で、市道の一部である(!?)海上80mの区間を毎日無料で往復しています。起源はなんと室町時代。渡船好きとしては乗らずにいられません。
この渡船の面白いところは「声出して呼ぶ」ということ。呼んで聞こえるくらいの対岸なので、乗客を発見したら船が来てくれるというシステム。地域住民の足ですが、時折サイクリストも訪れるようです。というのは親切な船長さんのお話。
乗船時間はものの3分程度ですが、昔ながらの風情を残した小さな渡船に乗ることができて大満足です。
松山から先は【今治・松山 はま風海道】を通って、海沿いに北上して【しまなみ海道】を目指していくのですが、またまた面白い場所を発見。
そこは【梅津寺(ばいしんじ)】。小説「坂の上の雲」…これも読んだことありませんが…ゆかりの地で有名らしいのですが、私的にひっかかったのが「東京ラブストーリーのロケ地」というフレーズ。
1991年のドラマだから実に30年前!?…うーん、反応したものの、それだけ年を重ねたんだと思うと感慨深い…というか、少し悲しくもあり。
なんでもカンチの故郷は愛媛県だったようで、ここ【梅津寺駅】は最終回の別れのシーンのロケ地なんだそう。覚えてないけれど。
でもホーム越しに見える海、改札を出てすぐの砂浜と見渡せる海の風景は、国民的ドラマの最終回にふさわしいロケーションなのでした。
では、気を取り直して【はまかぜ海道】を北上していきます。左にずっと海が見え続けるのが素敵なルート。アップダウンもほとんどないので、ペダルを軽快に回しながら距離を稼ぎます。
かれこれ、30kmほど走ると市街地に。どうやら【今治】周辺までやって来たようです。そこで、私の目を引いた、いや、二度見して戻って確かめたものが、この学園と獣医学部。はい、ニュースで有名になった場所ですねー。
今は多くの学生さんたちが獣医学の勉強に励んでいます。なので政治的なあれこれはともかく、頑張る学生さんを応援してあげたいですね。
しまなみ海道の秘密 その1【馬島】
そして例の学園のすぐそばに、しまなみ海道への入り口があったー!
13時30分。いよいよここから【しまなみ海道】がスタートします。いままで何度も走っているので今回はいつもと違うルート構成で走ることを考えてきています。
…のですが、この時点で少々雲行きが怪しくもあり…というのも前半に時間を使いすぎて、この時点で1時間30分ほど予定からビハインド。正午には着いているはずだったのに。
はい、いつもの旅あるあるですねー。だから、思い付きの立ち寄りはほどほどにしておけとあれほど…(以下略)
とかいいつつ、まずは【来島海峡】でワンショット。一応やっとかないとね♪的な旅の儀式(笑)。
しまなみ海道にかかる橋で一番長く大きい【来島海峡大橋】は、なんと全長約4km(!)の三連橋です。
これだけ長いと途中にある小島に橋脚を立てるわけで、その一つが眼下にある【馬島】。いつもこの橋を渡るときには「入り江が綺麗だなあ…」と眺めていたわけですが、調べてみると、なんとしまなみ海道から自転車で上陸できるらしい!
今までしらんかったー!!ということで、橋脚の下をくぐる小さなトンネル道を発見して中へ侵入します。なにやら探検感がでてきましたよ。
そこには橋脚伝いに、原付バイクと自転車を飲み込める大きな「エレベーター」が。なんか近未来感がすごい!テンションが上がります。
【馬島】に上陸ー!。周囲4km、住民20人未満という本当に小さな有人島です。それでも護岸整備はしっかりしていて船の発着もある様子。なかなか面白味のある島ですね。
見たかったのはこの入り江。来島海峡大橋から見下ろす美しいエメラルドはやはりここ。近づいて間違いがないことを確認しました。プライベートリゾートのような風景は、時間があればここでボーっとするのもよさげですね。
「馬島観光休憩所」。この時は開いていなかったけれど、観光客が来ることを想定している施設です。先ほどの入り江だったり、のどかな花畑だったり、旅の魅力的コンテンツは豊富なのですが、アクセスが限られるのが惜しいところ。でも、プライベート感がとてもよかったので、そこそこの人入りでいいのかもしれない、この場所は。
しまなみ海道の秘密 その2【見近島】
やはり、馬島でもゆっくりしすぎて、徐々に時間はビハインド傾向。もともとは【大三島】の「宗方港」から「岡村港」行のフェリーにのって、【とびしま海道】へアクセスする予定だったのですが、まず予定便には間に合わない。けれど、一本ずらせばなんとかなりそう。というような状況。
とにかく少しペースアップして、しまなみ海道は駆け抜けるだけのルートとして消化しよう!
とか言いながら、目の前にこんな標識が現れると寄らざるを得ない。
「伯方・大島大橋」の途中、歩行者・自転車・原付バイクのみが上陸できるという穴場的な小島。それが【見近島(みちかじま)】。
この入り江のエメラルドは【馬島】のそれと一緒。瀬戸内の離島のビーチってこんなに綺麗なんですね。
この【見近島】は無人島。そして島自体が「キャンプ場」でもあるのです。なんて素晴らしいロケーション!まさに「ちゃり×キャン」にふさわしい場所じゃないですか。いつか絶対ここでキャンプするぞ!と心に決めた私なのでした。
尾道、鬼道、タイムトライアル
そんなこんなで、いつもの旅ライド同様、思いつく場所に立ち寄り続けてしまったため、大三島の渡船には絶対に間に合わない時刻に。
一応、保険として「しまなみ海道→尾道→JRで広島」というプランを作っておいたので、そちらに乗り換えを決意したのが【道の駅多々羅しまなみ公園】でのこと。
この風景も何度も撮ってきたけれど、やはり旅の儀式として。しまなみの中間点、そして「サイクリストの聖地」としてあまりに有名なものではずすわけにはいかない。
とかなんとかやりつつ、結構時間はいっぱいいっぱいだったりします。というのも大阪と違って鉄道ダイヤの便数が少ないので、一本乗り遅れるとアウトという状況。ここからは一心不乱にタイムトライアルです。
大三島→生口島→因島→向島の四島を、わき目もふらずに駆け抜けます。いつもなら立ち寄る商店街やジェラートのお店も素通り。実際もったいない。
コンビニでのコーヒーもトイレ休憩と合わせてほんの一瞬。余裕ぶった写真は虚構です(笑)
日が暮れてきた…。沈みゆく夕陽と【因島大橋】のシルエットが美しい…。
と浸りたくなるけれど、実は息も絶え絶え状態。もっと余裕があれば、いろんな夕陽スポットを回れるはずなのに、鉄道ダイヤが最優先なのであきらめるしかない。
18時15分。なんとか、なんとか間に合った!息切れしながら飛び込んだ【尾道】への渡船。
気が付けば尾道の夜景が美しい。夕暮れ後のしまなみ海道ってこんな感じなんですね。時計とにらめっこしながらですが、船に揺られてる時間はどうしようもないので、ここだけはゆっくりできたなあ。
幸せの黄色い電車と500系
「新尾道から新大阪なら、そんなに焦る必要もないのでは?」という声もあるかと思いますが、この旅が詰んでしまったのは、チケットのせい。というか自分のせい。
瀬戸内旅ではよく利用する、日本旅行のチケット「バリ得こだま」。かなりの格安切符なので嬉しいのですがいわゆる「便指定」。で、私が購入していたのは「21:06広島発 こだま762号」。自転車旅での予定ルートを大きく外れてしまったので、在来線で広島駅に向かわないといけない。という状況を生んでしまったわけです。
18時47分、尾道駅からJR山陽本線に乗車して、2時間かけて広島へ向かいます。同じ2時間なら自転車に乗っていたかったですが、仕方がない。というか、この鉄道路線がなければ広島到達もできなかったわけで、なんだかんだ、いつもこの山陽本線の黄色い列車に救われているような気がします。
この時は乗車できてほっとしたことに加え、空腹と疲れで寝てしまい、広島までの記憶がありません。
広島駅に着いたのが20時45分。21時06分発の新幹線に間に合う最終便だった!ギリギリセーフ!!
待ってくれていたのは500系新幹線。かっこいい!!
本当に時間ギリギリでしたが、駅のコンビニで夕食を買いだして、車内ひとり打ち上げパーティーの準備。巻き寿司、カツサンド、シュークリーム、チューハイと、今見たらめちゃくちゃなメニューですね。
この日予定したルートは大幅に変更せざるを得なかったわけですが、兎にも角にも帰りの新幹線には間に合うことができたので良かったです。これがアウトだったら…と、考えるだけでもおそろしい…。
ここから新大阪までは「こだま」なので、2時間ちょっとの乗車。旅の反省と写真の整理等をしつつ、無事に帰途についたのでした。
旅のまとめ
結果としてのルートがこちら。大三島からは青ルート、尾道からは鉄道でオレンジルート通って広島へ到着。
本当は赤ルートのまま、大三島から【とびしま海道】にスイッチして、呉~広島を走りたかったのですが、冷静に考えると「松山経由」というのがそもそもの間違いですね。
しまなみをまっすぐ行った今回ですら【総距離195km、獲得標高1,700m、実走行8時間40分】と、かなりのロング。仮に「とびしま海道」に乗れても200kmを超えていたはず。そもそも「観光ライドなら100kmまで」という自分ルールがあるので、今回は企画そのものが甘かった!という反省です。
コストとしては、移動の船旅を含む1泊2日で【約2万円】と少々お高め。
経費のほとんどは移動費で、「船7,450円」「新幹線6,600円」「予定外の在来線1,490円」。
食事はあんまりとった記憶がないくらいです。
まあ、予定外の出来事やトラブルも旅の醍醐味ですから、ある意味、旅らしい旅になったような気もします。いっぱい焦りましたが、そんな思いですら楽しいと思えるので、今回もよい旅でした。
あ、最後に言い忘れましたが、少し過去旅。記事の順番と前後しますが、2019年ごろの出来事でした。ということで。
めでたし、めでたし。
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