別府への雪道にて、自転車旅は危機一髪!【ツールド冬休み】大分編(竹田~別府)その2

ツールド×旅Life

プロローグ

3日目の行程はこんな感じ。距離は短いですがエライことになりました
竹田市の長湯温泉から別府市までの約60km。
基本的には山岳地帯の縦断で標高が高くなるため、冬ならではのトラブルに見舞われるという1日です。

3日目 長湯温泉から別府へ

温泉。和室とこたつ。という冬場の幸せ満載のお宿で朝を迎えました。
障子をあけて外を眺めると、一面の雪景色。うん、なんて素敵な世界なんだろう…

ではなくて!これ自転車で走れるの!?
と、朝からいきなりのピンチ状態。確かに昨日の天気予報では「積雪10cm」て言ってましたし…
とかいいながら、しっかり朝風呂を楽しむ私。

とにかく、しっかり朝ごはんをいただきましょう。で、食べながら情報収集と作戦立てです。

正しい日本の朝食(ちなみに薬膳料理)をいただきながら、お店の人に道路状況などを聞きます。
宿の方は本当に心配してくれて「広い県道の方が交通量が多いし融雪処理もされているだろうから、30号線をたどっていくのが良いと思う。」とアドバイスをくれました。貴重な情報ありがとうございます!

「せっかくなので、お昼までゆっくりしたらいいですよ。」と親切におっしゃってくださいましたが、旅人として、ここは発たねばなりません。
とにかく進まないことには家に帰ることすらできないので、部屋を片付けバイクの準備を整えて、情報をくださった宿の方にお礼を言って、午前9時。いざ3日目のスタートです

情報どおり県道は広く雪も解けています。よしよしいい感じだ!
それでも橋の上は溶け切っておらず数センチの積雪が。ここでケガしてもダメなので徒歩で渡りましょう。

ちなみに今回はSPDシューズにトゥカバーという足元事情なので、容赦なく雪が入って靴が濡れる…足先のダメージが積み重なる…。冷たい。

標識を見ていると、どうやらこの先に道の駅がある模様。
暖房の効いた部屋で、ホットのコーヒーでも飲んであったまろう。うん、それがいい!

ついたところは【水の駅 おづる】。お湯じゃなくて水。きれいな神水がウリです……寒っっ!!
しかも朝早くてお店も開いてません。凍えるライダーは寒空の中で、トイレだけ済ませて先を急ぎます。

県道30号線を凍えながら進んでいくと、ダム湖が現れました。ここは【芹川ダム】
一面の雪景色と水をたたえたダムの姿がマッチしてとても綺麗。寒いけれど、しばし風景に見入ってしまった。

そしてこの峠を越えると、より広い国道210号線に出ることができます。
そこまでいけば何とか温まることができるはず!

…勝った!!

国道に合流するとそこは【由布市】。天気は晴れ、日差しもあってとにかくあったかい!
遠くには【由布岳】も見えています。

お宿の人からは「国道に乗って大分市に出るのが安全」ということでしたが、この天気ならいけるんじゃないだろうか…。
そう、私の計画では旅の3日目は【由布院≒湯布院】を目的地に設定していたのです。

この天気と自分の希望的観測をあてにして、国道を行かずに県道沿いから攻めてみましょう!

…この判断が間違っていました。というか、そもそも道も間違っていました。

ルートは湯布院から離れ、別府へ向かって標高を上げていきます。
【別府市】の標識が見えた時に、ルートの誤りに気が付いたうえ、心なしか雪が残っているような…。

さて、旅人の心境として「ここから引き返すことはしたくない」「まだいけるだろう」という自身の希望や妄想に引きずられる判断というのがあります。
山で遭難される方がいらっしゃいますが、きっとこういうことだと思います。「気が付いたら、後戻りすらできない状況になっていた。」

この時の私もまさにそう。我に返った時には、この写真の状況です。

積雪はゆうに10cmを超えています。当然ロードバイクにまたがることはできません。
そしてさらに吹雪いてきましたよ。視界はだいたい20mくらい…。手足は冷たくて死んでいる。車は通らない…。

タイヤがスリック23cという雪と最悪の相性であることはもちろん、リムブレーキなのでリムに付着した雪が、だるま式に大きくなってブレーキに詰まってタイヤが回らなくなる。
こうなると「タイヤが回らないロードバイクを押して歩く」しか手はありません。

帰りのフェリーの時刻は午後7時。地図上では約20kmの道のりです。
時速4km/hで押し歩いて5時間。この時、午後1時…ギリギリなんとかなるのか??

知らない土地で判断力も働かず、この時の私は「ここまで来たんだから、あと少しで峠を越えられる。下りになると楽になるはず。」と考えて、この状況でさらに先ヘ進む選択をしたのです。

約2時間が経過し、現在15時。お昼の補給は完全に忘れています。
空腹で疲れは出ていますが、気分はナチュラルハイになって(きっと危ない状態)山道を押し歩いていると、前で1台の軽トラックが路肩に停車して、運転席から誰か降りてきます。

「何してるの?どこ行くの?こんな雪の日に無謀だよ!乗っていきなさい!」と。
別府へ配達に行く途中のスーパーの店員さんでした。この時声をかけていただいて本当に助かりました。

仏の心を持つこの店員さんに甘えさせていただいて、荷台にバイク、助手席に私を積んで、別府まで連れて行ってもらえることに。
車中、旅のいきさつやロードバイクのことなど、いろんなお話をさせていただきました。
大阪の世間知らずの旅人に優しくしてくださってありがとうございます。
しかもここから先、別府までは私が歩いてきた距離の倍ほどの距離と高低差があったので、この方に拾っていただけなかったら、大阪に帰ることはできませんでした。もう、感謝のしようもありません。

別府へ抜ける雪の峠道では車の事故もあって渋滞もありましたが、1時間ほどして無事に別府市街に到着。
店員さんとはここでお別れです。本当にありがとうございました!!

後で気づいたのですが、あの時名刺をいただいておけばよかった。今になってもそう思います。

さて、現在16時。おかげさまで別府の地に降り立つことができ、フェリーまで時間もあります。
ここは、せっかくですので別府市内の観光と、この冷え切った体を温泉で温めることにしましょう。

先ほどの後悔があるので、別府の地獄めぐりなど山間部へは行かずに、港周りをまわります。
昭和の香りが色濃い【別府タワー】。有形文化財の建造物で、大阪の通天閣の兄弟ですね!

別府駅には、謎の像【ピカピカおじさん】と足湯ならぬ【手湯】がありました。
冷え切った体には、手湯だけでもありがたい!
ちなみにピカピカおじさんは【油屋熊八さん】といって別府のまちづくりに寄与された方。
地元ではとても有名で「山は富士、海は瀬戸内、湯は別府」の句はこの人だそう。

そして、本日の温泉は旅の前から決めていた【竹瓦温泉】です!!

明治12年創業の大衆浴場。昭和13年に改築されたのち姿を変えず今に至る…。素晴らしい!!
まさに別府温泉の象徴ですね。

さすがに中の写真はありませんが、昔からのままの内装と浴場で、木造の建屋の中に大きな浴槽が一つだけ。シャワーも洗い場もないとてもシンプルな造りでした。
かなり熱いお湯なんですが、我慢して入ると自然に体も慣れてきて、建屋の歴史と一体化したような安堵感のもと、しっかり温泉を堪能することができました。

仕方がないことですが、唯一残念だったのがこの竹瓦温泉のまわりが、現代の「色町ちっく」な街並みになっていて、この温泉だけが凛と立っているものの浮いている、という佇まいであったこと。
現代の時の流れでは仕方ないことではあります。ましてや旅人風情が文句垂れるのも筋違いですが。

風呂上がりの火照る体を落ち着けに、別府湾に繰り出してみます。
そろそろ夕刻なので日がずいぶん傾いてきました。東向きなのでサンセットは拝めませんが、薄暗くなりつつある海の向こうも風情があって、また良し。

18時になって、本日2度目の食事となる夕食です。雪道でなんやかんやあって、宿から一切補給をしていませんでした。
お腹が減りすぎて、ご当地ものではなく「ただボリュームのあるものが食べたい」。目的は満腹感!
というわけで、ここは【トンカツ】を選択!美味しかったのですが、残念ながらお店の名前を失念しちゃいました。

そろそろフェリーの時間です。乗り込む前に、船内で楽しむおつまみとビールの調達をしましょう。

初日にも食べましたが、大分はやっぱり【唐揚げ】ということで、ポッポおじさんから唐揚げを買い、コンビニでビールとおつまみを調達して、ようやくフェリーへ乗船です。

ここでうれしいサプライズ。
往復チケットだったので帰りの船室が無料で個室にグレードアップされました!
「わーい!二段ベッドだー!!」と小学生のように心ではしゃぐ私。(当然2階をチョイス)

フェリーって移動手段なんですが、居住空間でもあるので、安心感・安堵感が半端ないです。
船内に入った瞬間、緊張が解けて「ゴーーーーール!!!」って気分になりました。

今日は本当に疲れた…。
荷物を置いて、まずは大浴場でゆっくりと。(さっき温泉に入った)
そして船窓から、別府港の夜景を見ながら、唐揚げ&ビールで乾杯!(さっきトンカツ食べた)

そしてそのまま、朝までベッドで爆睡です。

4日目 さんふらわあで 別府から大阪へ

ゴンゴンゴン…ンと、フェリーのディーゼルエンジンの音が心地よく響く中、朝の船内放送で目を覚まします。

別府港で眠りに落ちて、目が覚めたら淡路島が見えている。船旅って本当に素敵すぎる!
「うーーん」と伸びをしたらそのまま朝風呂へ。うん、素晴らしすぎる朝だ。

フェリーでは朝食が楽しみ。ビュッフェ形式ってテンションが上がりますよね。
そんな私は、一通り食べておかないと気が済まない派で、このあとしっかり和食もいただいています。

4日目となるこの日は、大阪南港から自宅までの移動ステージ。しかも電車輪行なので、旅としてはフェリーを降りたら完結です。

荷物を整えた後は、甲板に出て潮風に吹かれながら大阪港が近づいてくるのを眺めます。
この港自体が初めての利用なのに、旅から帰ってきた感がするのはなんとも不思議ですね。

午前7時30分。接岸の大きな汽笛の音とともに、3泊4日にわたる私の【初めての自転車旅】は幕を閉じたのでした。

めでたし、めでたし。

エピローグ

この【ツールド冬休み 大分編】は、2017年ごろのものです。
私の初めての旅でもあり、一番印象に残っていることはもちろん、初めてゆえの失敗や学び、また楽しさや感動など、あらゆる部分で次の旅につながるベンチマークとなりました。

この時は【記録や記憶に残す】ことをあまり意識していなかったので、手元にあまり資料が残っていません。そのため、大体の概要にしかなりませんが、この旅の端的なまとめを記しておきます。


< 行先 >  大分県  別府市~竹田市(泊)~別府市

< 行程 >  3泊4日 (船中2泊、現地1泊)

<走行距離>  約 140km (2日目 82.9km、3日目 60.0km)

<獲得標高>  約 2,800m (2日目 1,795m、3日目 1,018m)

< 経費 >  約 35,000円 (フェリー往復15,500、宿代12,000、食事1,000×6)


<旅の感想>
フェリー旅は最高!移動&宿泊、夜間発・早朝着のメリットはかなり高い。
・大分は温泉天国!秋冬ライドがふさわしい。
・1日あたり100km未満が、旅ライドの距離として余裕があって最適。
・山越えが堪えた。しかし九州を走るなら山越えは避けられない。
・人との出会いに感謝。旅人としてあらゆるところで人にお世話になる。

<旅の反省>
・冬場の旅ライドは、現地の天気予報とルート標高の把握が大切。今回命に関わるラインだった。
無謀と無茶は厳禁。旅先では人のお世話になって必ず迷惑をかける。中断や引き返すことが頭をよぎった時点で決断を。
・冬の装備を見直す。特に手足先の防寒は重要。あと荷物は最小限に絞る。今回は持ちすぎ。
・補給食は切らさないよう、装備の数にデフォルトでカウントしておく。


苦労や失敗もたくさんして、自分の限界もわかったけれど、その分とても多くの経験と学びを得た旅でした。
何より、フェリー旅の異世界感と快適さに感動したので、この後からの旅のフェリー率が異様に高くなってしまうことになり…この旅をきっかけに私の【ツールド×自転車旅】が始まったのでした。

【ツールド冬休み 大分編】おしまい。

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